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STANLEY

Author:STANLEY
Sex: man
Hobby: Nationality:
Basketball, Travel,
Reading books

Asian American

◆I have ever been to
U.S(SF, Chicago, NY, Houston),Canada
Mexico,Panama,Paraguay,Argentina
Thailand,Taiwan,Japan,China,India
Australia, New Zealand,Israel

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夜の底

 は、衣食住にあまり興味のない男だ。住む家だって、着るものにだって、食べ物にだって殆どこだわりがない。適度に清潔でありさえすれば、なんだっていいと思っている。だから、どこかに食べに行こう、どこがいい?などと親切に聞かれても答えに困ってしまう。当然だ。どこだってよいのだから。

 それでも、僕は自分の頭の中に降り積もった考えをどこかで吐き出さないと気がすまないらしい。だから、数少ない友人が一緒に食事でもしようと言った時、僕は迷わず飛びついた。勝手な人間だ、と思う。彼は焼肉でも食べようと言った。それで結構と僕は言った。彼は、今晩はおごるぜ、と空威張りしてみせた。僕は、ますます結構と思った。

 焼肉といえば、シカゴにあるのは韓国風焼肉ばかりで、日本スタイルというのはあまり見ない。しかし、3年ほど前に「牛角」がシカゴにオープンしていたのだ。彼は、そこに行こうという。韓国風も、日本風も僕にはほとんど意味のないことではあるが、ようはキムチがあるかないか、違いはそんなところだろうと思う。

 店は混んでいた。いやに目つきの悪いレジの女に45分待ちだ、とまるで死刑宣告のように言われる始末だった。それにしても他のレストランを探すのも億劫なので、すぐ上の階のバーで酒を飲んで時間を潰した。僕はマルガリータを注文し、水のように一気に飲み干した。30分ほどして、席が開いた、と牛角のスタッフから声がかかった。今度は、妙に身長の低いラテン系の女の子だった。

 店に入ると、そのラテン系の子は「いらっしゃいませ!」と日本語で大声を出し、僕らを座席に案内した。座敷だった。とりあえず、生ビールを注文し、それから60ドルの焼肉コースを頼んだ。メニューが英語であるところを除いて、全部、日本にいるみたいだった。リアルな、本物の日本。僕は焼肉をつつきながら、昔を思い出してなんだか妙に悲しくなった。そして焼肉をオートマティックに口に放り込みながら、馬のように咀嚼を繰り返した。焼肉は、おいしかった。

 それから僕らは、お互い好き勝手に話し続けた。彼が最近飼い始めた海水魚の話を始めれば、僕は自らの社交性のなさを嘆き、彼が結婚について話している間、ぼくはひとり政治の話をしていた。もうめちゃくちゃだった。誰も相手の話に真面目に耳を傾けるものはいなかった。はじめに飲んだマルガリータがまずかったのだ。それでも、お互いの話にろくに注意を向けないまま、丸2時間僕らは大いに語り合い、満足して店を出た。

 店の外に出ると、もう真っ暗だった。夜の底まで来ていた。シカゴは夜でも一様に騒がしい。ある者は家族と、ある者は恋人と週末の夜を楽しんでいた。自分だけを除いて、何もかも幸福と愛に包まれているようだった。僕はそれを見てさっきまでの酔いも興奮もすっかり覚めてしまった。誰からも、何ものにも相手にされない、理解されないだなんてたまったものじゃない。行き着く先は、孤独と死だ。こうして僕はげんなりとなって、一人夜の街を帰途についた。

“僕はたえず自分がからっぽになることを、つまり存在する真剣な理由が何ひとつなくなることを恐れつづけていた。いまや僕は現実を前に自分のむなしさを痛感しはじめていた。自分が暮らしなれたみみっちい環境とはあまりにもかけ離れすぎたこの境遇の中で、僕はみるみる溶け去っていくようだった。今にも自分が存在しなくなりそうだった、あっさり跡形もなく。”
-ルイ=フェルディナン・セリーヌ- 夜のニューヨークで
  

セミの脱皮
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