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STANLEY

Author:STANLEY
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Kへ

 拝啓。突然のお便り、失礼申し上げます。久しぶりですね、お元気でしょうか。何やら風の便りで、色んなことを聞きました。紆余曲折あったそうですが、無事、大学院を卒業し就職もできたというのだから、嬉しい限りです。学問は、学問で結構ですが、やっぱり定職があったほうがいい。大きな会社で、給料が高ければなお良い。私のほうは、この通り、いまだに学者ぶって壁に生えた苔のような貧乏生活をしております。

 さて、こうして手紙を書いたのは、他でもないAのことです。学生のときは、3人でよく騒いだものですね。当時は、「家庭」という言葉が最も似合わない男ではありましたが、卒業後、一番初めに結婚したのがあいつでしたから、結婚式の日には随分冷やかしてやりましたね。結婚したらしたで、色々と大変なことも多かったと聞きますが、それから約一年、とうとう伴侶が身ごもったそうです。妊娠3ヶ月。我が家から、数マイルの距離ですから、先日ふらりとAの家に立ち寄りました。奥さんのお腹、うっすら大きくなり始めているんです。あと、一ヶ月もすれば、男の子か女の子か察しがつくそうで、科学の進歩に、また甚く感心しました。

 Aのやつも、とうとう父親です。昔と変わらず、幾分か猫背になってへらへらとだらしなく笑って、実に幸せそうでした。突然、きりりと口をへの字に曲げて、「僕も、もう父親になるのだから、手前の命はしっかり守らなきゃならん」とか、変に真面目なことを言ったと思えば、また次の瞬間には、もとの通りへらへらとだらしなく笑って、幸せが体全体から染み出してくるようでした。私のほうも、「是非、妻子をこれからも大切にしてやってくれ。」と、また背中が痒くなるような台詞を吐いて、自分でも恥ずかしいくらいです。それから、新しい子供のために、何か必要なものがあれば遠慮なく言ってくれ、あれば私とKで何とかするからと、また無責任な事を言った次第であります。

 いえ、何もお金を融通しろとか言うのではありません。まったく、そんなつもりはないんです。ただ、どうも心配なのです。というのは、生まれてきた赤ん坊を見て、どんな顔をすれば良いのか、わからないのです。ただ、にこりと笑って、「かわいい子だね、おめでとう」と言えばいい、などと思うのでしょうが、そう簡単な事ではないのです。私は、このかた自分が生まれておめでたいなどと思ったことがない。誕生日なんてくだらないし、生まれてこなければ良かった、そう思うのです。いえ、誰かを責めているとか、怨んでいるとか、そういうつもりはありません。ただ、どうも私は、自分の命に感謝できていないのです。

 何も、今の自分の境遇が不満であるとか、恐ろしく醜悪な過去を引きずっているとか、そういう訳ではありません。どちらかというと、割合幸せな生活を送ってきたのではないかと思っています。けれども、どういう訳か、生きているのが虚しくて仕様がない。そんな感情が、生まれたての赤ん坊の顔を見たときに、ともすると私の表情に現れるのでないかと、戦戦慄慄しているのです。そんな野蛮な感情は、何としても隠さねばならぬ。新たな生の誕生は、常に美しくなければならぬ。そう思います。

 しかしどうして、生きるのが虚しいだなんて感じてしまうのか。それは、最近の自分自身の環境の変化に原因があるようです。病床で死にたくない死にたくないと最後まで呟きながら祖母は死んでゆき、友人のひとりは急死し、先輩は自殺しました。兄は、日に日に人間の尊厳を剥奪されたような堕落した生活に堕ちていっています。デカタンと呼ぶには、あまりにも悲しい。それ以来、私の周りには、ただ虚無の風が吹き荒れています。

 死にたいというより、虚しいのです。出世も、恋も、命も、名声も、何もかも、くだらない。なんだか、冒涜的な響きがしますね。いえ、生きることは美しくなければならぬし、誕生は祝福されるべきものでなければならぬ。老後の自己弁解のためにも、少しは苦労もせねばならぬ。でもやっぱり・・・。

 生きるのは、くだらない。
 でも、死ぬのはもっとくだらない。

 それでも、生きねばならぬ。

 敬具

テーマ:物書きのひとりごと
ジャンル:小説・文学

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