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STANLEY

Author:STANLEY
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ベアーズ

 神経を磨り減らした私の様子を見て、このままではいずれ首をくくるなり、人を刺すなりすると思ったのだろうか。このところ隣人が急に優しくなった。たしかに、わたし自身の顔を鏡で見ると、頬はこけて口はへの字に曲がり、目はますます釣りあがって妖光を放ち、何かただならぬ事をしでかしそうな様相ではある。
 いずれにせよ、そんな状況なので、隣人が私にベアーズゲームを一緒に観戦しないかと持ちかけた。ベアーズとは、つまりアメフトである。アメフトとは、何を隠そうアメリカンフットボールの省略形である。ベアーズとはまた勇ましい名前をつけたものだと感心するが、私は実のところイリノイで熊なぞ見たことはない。見たのは、リスとオポッサムくらいのものである。いもしない動物の名前をチーム名にするなど褒められた事ではないが、かの有名なジャイアンズとて別に巨人の集まりであるわけではないし、まあそこは口うるさくならなくても良いのかもしれない。仮にも、オポッサムズでは迫力がないし、やはりベアーズで良いのだろう。
 隣人の家は大きかった。2階建ての家に二人暮らしである。実のところ、こうやって他人の家にお邪魔するのは割と好きで、壁に立てかけてある写真やオブジェの一つ一つを観察して回る。人間なぞ普段は何かと演技して生活する生き物である。けれども、その人の家の内部から何かその人の本当の人となりを垣間見れる気がするのである。他人も当然私の家を訪問するときは、心の中でそういったことを期待してほくそ笑んでいるに違いないと思い、私の家のリビングには旅の途中に買ったお土産や写真をずらりと並べてある。普段は、自分の思ったことなど堂々と発言しない、金魚のごとく口をぱくぱくさせるだけの気弱な男である。それで、「おや、この写真は一体どこで撮ったのかね?」とか「これは高かったろう?」などと訪問客が質問をした際には、きちりと説明できるよう心構えをしていたのである。ところが、悲しきかな、誰も何も質問しようとしないばかりか、訪問客は家に入るなり、チップスを貪り食い、TVにへばり付いたまま視線を動かそうともしないのである。一体全体、私を訪問してきたのか、TVを訪問しに来たのかわかったものではない。悲しいことである。
 そんなこともあり、わたしはかの隣人の家を訪問した際は、飾り付けてある写真を見ては「これは何ですか」とか「どこで撮ったのですか」とか質問を連ねる訳だが、隣人はいぶかしそうに空返事を返すばかりであった。どうやら他人の考えていることと、私の考えていることは違うらしい。
 ほどなくしてピザが届き、試合が始まった。TVをほとんど見ない私は、アメフトなど名前こそ聞いたことがあれども、実際に試合を初めから見たのは始めてである。しかし何のことはない。体の大きな男たちが、暑苦しい装備を着け、ぶつかり合ったり、抱きついたりするだけのことである。ヤシの実のような形をしたボールを持った男が、ガタイに似合わず、器用に足をステップさせ飛び回り、ボールがラインを超えると、わあと歓声があがる。そんなことで、観客は一喜一憂するのだから不思議なものである。我が隣人も同様、ピザのチーズを口から垂らしながら、叫んだり喚いたりする。この様子だと、いずれ裸になって踊りだすに違いない。もしそうでもなれば、携帯でその様子をしっかり撮影し、Youtubeに投稿し、この醜態を日の目に晒してくれようぞ、と思うのだが、なかなかそうはならない。すんでのところで自制心が勝るのである。惜しいものだ。
 時間は刻々と進み、けれども試合は一向に終わらない。わたしはあくびを何べんもし、10時になったのを機に、大変な用事を思い出したふりをしてその場を去った。外はすでに真っ暗で、白くぼんやり光る満月が雲をわずかに照らしていた。向かいの家からも、わあわあと歓声が風に乗ってかすかに聞こえてきた。

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